おこもりステイなどで人気のブックホテル。広島の中心地にあるビジネス旅館はらだの小説コーナーにも、500冊以上の小説があります。今回は、日本が世界に誇る「お茶」にまつわる本を紹介。お茶会での、お客さまへの「一期一会」のおもてなしに感動。いつもと変わる旅先における心の琴線にふれるような本と出会う楽しみを、旅館はらだの本棚でどうぞ!
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ブックホテルもビックリ!?ビジネス旅館はらだの本棚紹介
近年は、小説や雑誌、写真集などを、旅先のお部屋でおこもりして楽しむ「ブックホテル」なんていうホテルが人気です。いつか時間ができた時に、ゆっくり読もうと楽しみにとっておいた小説。新幹線のホームの売店でふと目に入った、お気に入りの作者の新刊本。電車やバスから眺める、知らない土地の風景が流れる様子を眺めなる。地元のグルメを満喫して、温泉に浸かって、テレビも携帯もoffにして、いつもとは違う寝床にて、久しぶりに活字に浸りきる。
日ごろ目につかなかった景色や、気にしなかった香り、旅にでると、心がオープンになって、いつもとは違う心のアンテナが建つことはありませんか?そんな時だからこそ、すっとしみ込んで来る文章。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか?そんな素敵な、特別な空間・気持ちに導いてくれる「ブックホテル」。コロナ禍のなか、心の癒しを求める旅先としてはピッタリですね。
原爆ドームから歩いて5分のビジネス旅館はらだにも、「ブックホテル」のような壁一面本棚!とは違う、スタッフの手作りの「味のある本棚」があります。「ブックホテル」などに置かれる本などは、ブックディレクターという専門の方が選書して、そのお宿や観光地にあったモノが並ぶことが多いようです。ビジネス旅館はらだの本棚はスタッフの個人蔵書。大切に読み繋いできた、自慢の本達。並んでいる作者・作品を眺めると、「あ~なるほど~」と、スタッフの好みや人となりの一部分がわかってしまう偏った選書です。そんな個人的な選書もまた、宿をより身近に感じて頂ける機会にもなるのではないでしょうか?
「お茶」にまつわる本の紹介。岡倉天心「茶の本」
ビジネス旅館はらだの小説コーナーから今回紹介させていただくのは「お茶」に関する本達です。まずは一冊目。言わずもがなの聖典!岡倉天心の「茶の本」、The book of tea。
岡倉天心は、明治に活躍した文化人。留学経験もあり英語堪能。お雇い外国人として来日していたフェノロサと共に、それまで「芸術」として認識されてこなかった地方のお寺や村にひっそりと眠っていた仏像などの日本美術を再発見して、紹介しました。
そのような活動を続けていくうちに、日本美術の至る所に影響を及ぼしている「お茶」の文化を理解。「お茶」「茶道」「詫び寂び」の文化にフォーカスを当てて、海外に紹介するために英語で書かれたのが「茶の本」。
お茶の発祥は中国。しかしチンギス・ハーンなど蒙古族による支配によって大陸では「お茶」文化は絶たれたが、日本という特殊な環境(宗教、考え方、四季、鎖国etc)で独自に「進化」!そんな世界に誇る日本の「お茶」の世界を、わかりやすく解説されている本。頁数もコンパクトでとても読みやすい、正に入門編!
「茶道」に出合い、気づく学び。「日々是好日」
茶目っ気タップリな岡倉天心の「茶の本」で興味をもったところで、いざ茶道の世界へ! しかし、そこには、伝統、しきたり、作法、格式ばって方苦しくて、理解しがたい世界が待ち受けています。
親の言われるままになんとなく、お茶の稽古に通いだした筆者。「え〜変じゃない?」と、微妙な気持ちを持ちながらも、通い続ける25年。就職活動の壁、失恋、仕事の世界、、、山あり 谷ありの人生を歩むうちに、理解できなかった茶道の所作から、少しづつ得ることができる「気付き」。
季節ごとに変わる、茶器の扱い方やお茶のたて方。茶室に飾るお花や掛け軸の選び方。茶会での所作や、会話。覚えることなんて不可能!というくらい膨大な知識、情報。でも初めは分からなかったことが、長年稽古を積み、体、心に茶道をしみ込ませることで初めて気付き、学ぶことができる「何か」。
インターネットの世界にも、一生かかっても目を通すことができない情報に溢れています。そしてそのどれも「簡単に、理解しやすい」ように公開されています。そして、簡単に忘れてしまいます。本当に必要な「何か」に気付くということは?というきっかけになるような素敵な本です。
大森立嗣監督、お茶の先生を樹木希林さん、作者役の主人公を黒木華さんが演じた、まさに「妙」な配役で映画化もされています。
茶の始祖 千利休に出会う。「利休にたずねよ」「千利休とその妻たち」
現代の人にも「気付き」もたらし、日本だけではなく世界にも広まる茶道。戦国の世にあって「茶の湯」「わび茶」を大成させた千利休。ボッテリとした厚みのある黒色の樂茶碗。侍であれ誰であれ、刀も何も持たず体一つで入るように躙り口から入る、膝が触れ合うほどの狭い2畳の茶室。今の茶道の伝統を作ったその人です。
そんな利休を、色々な面から読み解いてみるのも、とても興味深いです。堺の商人としての富豪・ブルジョワジーとしての利休。織田信長、豊臣秀吉の側近として政治にも意見する利休。お寺の寄進や絵画などの振興にも積極的な利休。そして一人の男性、父親としての利休。
山本兼一著「利休にたずねよ」は、市川海老蔵さんが主演で映画された名作。物語は、天下一の数寄者、茶聖として名を轟かすも、その影響力から、時の為政者 豊臣秀吉の逆鱗に触れ、自害する場面から始まる。死を前に、ずっと心にしまい続けていた、青年期に出会った「想い人」との記憶が蘇る。
庭に咲く全ての朝顔の花を切り落とし、茶室にだけ一凛 朝顔を飾ることで、その花の美しさと儚さを表現する。何気ない竹を取ってきて、茶杓をササっと削り取れば、目が飛び出るほどの価値が付く、、、などなど、型破りだけど、真の「美」を見つけ出す利休の気質の原点は「想い人」との出会いであった!
もちろんこの物語はフィクションです。しかし、千利休には、実際に多くの浮いた話があります。千利休の初めての妻は有力な武将の妹でしたが、その他にも数人の女性と関係があったそうです。そして、最初の妻が亡くなった後に、宗恩と再婚しています。
宗恩は、千利休の能の先生の妻だった人。その能の先生が亡くなった後に、結婚されたそうです。宗恩の連れ子が、利休の妾の子と結婚するなど、現代からすると「それどうなの??」な展開ですが、当時の商人・大富豪たちは、正妻の他の女性との関係も持つことも多かったとのこと。
文化・風習とは時代に応じて「正しいこと」「間違ったこと」が変化することを改めて感じます。今の常識も、あと何年か後には非常識になっているのでしょうね。
最後の妻となった宗恩は、千利休の最大の理解者であり、キリスト教の信者。「千利休とその妻たち」の作者 三浦綾子さんは、長く大病を患ながらも、キリスト教と出会い洗礼を受けた方。
千利休の妻やその他の女性やその子供達との関係や、お茶の師匠・弟子、時の権力者・武将たちとのやり取りを丁寧に描きながら、物語は進みます。そして、最後の妻 宗恩のキリスト教に基づいた考え方や、その祭典(ミサ)などから影響を受けながら、千利休の茶が大成したのでは?と書かれている部分は、初めて出会った視点だったので興味深い。
侍であれ、農民であれ、富んでいようとも、貧しかろうとも、躙り口を潜って茶室の中に入れば身一つ。地位も階級も貴賤も問わず、一期一会の「お客さま」として、一服の茶をもてなす。「お一人お一人のお客さまのご要望に柔軟に対応する」ことをモットーにしているビジネス旅館はらだとしては、更に「おもてなし」を磨いくぞ!と刺激を受けました。
コロナ禍・ウクライナ侵攻、、、不安な日常の中が続きます。今と同様に、激動の戦国時代のなかにありながらも「美」を追求し、「茶の湯」を完成させた千利休茶の物語や、「茶道」に関する本を読みながら、ホット一息「お茶」のような宿泊体験はいかがでしょうか?